国土交通省観光庁は、毎月主要旅行業者の取扱状況を観光庁のWebサイトで公開しています。今回は、Webサイトで公開されている主要旅行業者の取扱状況を、新型コロナウィルスの影響を受ける前から2020年12月までの間でどのように推移してきたのかを分析していきたいと思います。

分析に当たって、2020年1月から2020年11月までの発表データを用い、それらに記載されている前年同月データを合わせて参照することで2019年1月から2020年11月まで(ただし、本記事執筆時点で公開されていない12月を除く)の計2年間のデータを使います。

主要旅行代理店の顔ぶれ

まず、今回の対象となる主要旅行代理店について確認していきます。観光庁のデータでは、主要旅行代理店として約50社のデータが掲載されています。この50社には、JTBや阪急交通社など同一法人グループの中に別法人を立てて運営しているものは全て1社としてまとめてカウントされているため、実際の法人数としてはもっと多い計算になります。

この50社のうち、トップ7社には

  • JTB
  • エイチ・アイ・エス
  • KNT-CTホールディングス
  • (株)日本旅行
  • 阪急交通社
  • (株)ジャルパック
  • ANAセールス(株)

がランクインしています。この中で「KNT-CTホールディングス」は聞き馴染みのない社名のように思われますが、「近畿日本ツーリスト株式会社」と「クラブツーリズム株式会社」が経営統合された後の社名となっています。

2019年の取扱金額

まずは、新型コロナウィルスが流行する前に当たる2019年の取扱金額を見ていきましょう。

金額で見ると、JTBの一人勝ち状態であることが分かります。11ヶ月分のデータで1.5兆円の取扱があり、2位のKNT-CTホールディングスの4,000億円を大きく引き離しています。2位以下の旅行代理店はどれも比較的拮抗した取扱高となっており、2位争いが熾烈になっています。

また取扱金額を「国内旅行」「海外旅行」「外国人旅行」で分類したときの比率で見ると、それぞれの旅行代理店の戦略が分かりやすくなります。

1位・2位・3位のJTB、KNT-CTホールディングス、日本旅行は国内旅行の割合が60%程度、海外旅行が25〜35%、外国人旅行(インバウンド)が5〜10%程度となっています。それに対して、エイチ・アイ・エスは国内旅行はわずか10%程度であり取扱金額の約80%を海外旅行に依存する戦略となっています。

その他の会社では「日新航空サービス」「エムオーツーリスト」が海外旅行比率が高くなっています。これら2社は個人向け旅行ではなく、法人向け旅行(海外出張や社員旅行)を中心とした旅行商品を提供している旅行代理店のようです。

2020年の取扱金額

続いて、新型コロナウィルスの流行が起きた後の2020年の取扱金額を見ていきます。1〜3月の数値を入れてしまうと、新型コロナウィルスの影響が分かりにくくなってしまうので、2020年4月〜11月でグラフにしてみました。

金額で見ると、JTBの一人勝ち状況であることは2019年と代わりはありません。しかし、2019年は5位にマークしていた「エイチ・アイ・エス」が2020年は9位にまで落ち込んでいます。平時では海外旅行戦略で大きな取扱金額を挙げることができましたが、この新型コロナウィルス状況下ではそのような戦略が裏目に出てしまったようです。とはいえ、この短期間で国内旅行に舵を切り、取扱金額9位で留めることができたのは幸運なのかもしれません。

「国内旅行」「海外旅行」「外国人旅行」で分類したときの比率の上位は95%近くが国内旅行となりました。特に「ジャルパック」「ジェイアール東海ツアーズ」は99.9%以上の売上を国内旅行で締めるまでになりました。一方で「日通旅行」「日新航空サービス」「エムオーツーリスト」は依然として海外旅行比率が50%を超える状況となっており、中小規模の旅行代理店で戦略を大きく変えることが難しいことを如実に表しているのか、もしくはこういった状況下でも海外出張の需要は激減はしながらも一定数は残っているということなのかもしれません。

月別の取扱金額推移

次は、月別で取扱金額の推移を見ていきたいと思います。2019年12月のデータが抜けていますが、この月については前後の月を使った線形補完でグラフを作成してみました。まずは、カテゴリー(「国内旅行」「海外旅行」「外国人旅行」)別での推移です。

このグラフをみていくと、2020年3月から大きく減少しており、緊急事態宣言が発出された4月・5月は「国内旅行」「海外旅行」「外国人旅行」のどれもが最低水準となっています。これら3つを合わせても平時の外国人旅行(インバウンド)の取扱金額に満たない程度となっています。

それ以降は、国境をまたぐ旅行である「海外旅行」「外国人旅行」については回復することなく推移しています。

その一方で、6月以降緊急事態宣言の解除に伴い、海外旅行の代わりに国内旅行をする人が増え、少しずつ取扱金額が増えていっています。東京都以外で2020年7月末からGo To Traveキャンペーンがスタートしたのですが、このグラフをみると、7月からスタートしたGo To Travelキャンペーンは大きな影響はないように思います。しかしながら、2020年10月から東京都も含め、さらに地域共通クーポンも付与され本格的なGo To Travelキャンペーンがスタートすると、その利用も大きく増えているようです。

2020年11月の国内旅行の取扱金額でみると、コロナ前のその水準にかなり近づいていることが分かります。

Go To トラベルで成功した旅行代理店は?

次は、Go To トラベル・キャンペーンが本格稼働した2020年10月・11月のデータを昨対比でみていきたいと思います。

全カテゴリーを対象にするとどの旅行代理店も苦戦しているようですが、その中でも「ジャルパック」「ANAセールス」「ジェイアール東海ツアーズ」の3社は海外旅行の取扱がほぼゼロでありながらその分を国内旅行でカバーし、昨対比60〜80%をキープしています。

表を下の方までみていくと、 「富士急トラベル(株)」のみが昨対比100%超えの118.64% を叩き出しています。これは、コロナ下にいながらも昨年よりも高い取扱金額であることを意味しています。

富士急トラベルはもともと国内旅行がメインの旅行代理店となっているため、海外需要が激減したコロナ禍でもその影響を最小限になっていたのが1つ目の要因と考えられます。富士急トラベル(株)が好調な理由のもう1つは、主力旅行商品が富士急ハイランド周辺の観光地であり、これが首都圏から日帰りまたは1泊2日程度で気軽に旅行に行ける、というのが大きいと言えます。また、屋外アトラクションとなるため、換気も気にする必要がないのが大きいかもしれません。

このように、多くの旅行代理店が売上を半減させている中、唯一富士急トラベルだけが昨対比で取扱高を大きく増やすことに成功したようです。

まとめ

今回は、観光庁が公開している「主要旅行業者の旅行取扱状況速報」のデータ11ヶ月分を元に、コロナウィルス流行前・流行後・Go To トラベルキャンペーン開始後の旅行商品取扱金額の推移をみてきました。

実際に数値をまとめていくと、ニュースなどで見聞きする以上に旅行代理店の悲惨な状況が浮き彫りになってきました。

なお、今回利用した観光庁のデータは、国土交通省 観光庁 報道発表配下のページからダウンロードすることができます。